外界と内界|庭づくりと私
庭いじり
幼い頃から土に触れることが多かったです。スコップは私の大事な遊び道具であり、新しい世界を拓く鍵でもありました。アリの巣を掘り起こして朝から夕方まで眺めた日もあれば、小さな池を作って魚を泳がせたこともありました。ファーブル昆虫記を読んでからは、観察することに興味が湧き、周りの草花の種を蒔いて育てたり、野山から草木を移植して生長を記録したりしました。
どんぐり集めに熱中したのは5歳くらいだったと記憶しています。コナラやクヌギ、ウバメガシなど形や大きさの異なるどんぐりを集めては、土に埋めて芽生えを楽しんでいました。雑木林を作ってみたいと思うようになり、小さなスペースではありますが、コナラ・クヌギを中心に実生を育てました。下層にはマムシグサやウラシマソウ・スミレの仲間など、野山で見つけて気になった植物を配置しました。夏になると樹液が滲み出し、カナブンやゴマダラチョウ、ルリタテハが訪れるようになりました。夜になるとヤママユも飛び始めました。昆虫だけでなく野鳥や小動物も集まるようになり、キジバトが巣を作り、夜にはイタチやタヌキが散歩に来ました。
こうして、庭を自分で設計し、植物を植え、手入れを続けました。屋内での遊びと比べると、庭は気象や生長に伴う変動因子が豊富で、空間的・時間的な発展性が大きいです。四季折々に花を咲かせ結実する様子は見ていて楽しく魅力に富んでいます。私にとって庭は小宇宙のような空間であり、創造と探究を重ねるにつれて広がり続けました。
野菜づくり
生産的な活動もするようになりました。野菜づくりです。最後に収穫物を料理して味わうという楽しみが加わることで、収穫の多寡を意識するようになりました。
最初は家庭で消費する分のみを育てる、ほんの小規模な家庭菜園としてスタート。つるなしインゲン・ゴーヤー・ピーマン・ミニトマトなど、害虫や病気の心配が少なく簡単に育てられるものを中心に選びました。プランターでも満足のいく収穫量でした。
慣れてくると畝を作ってやや本格的に取り組むようになりました。株も自分で増やしました。例えば、トマトは3株の苗から挿し木を繰り返して、30株以上になったことがあります。毎朝、ボウルが一杯になるほどの収穫量です。
今年はマルチシートを張ることで、雑草が生えないようにしました。このおかげで、手入れは格段に楽になり、必要な作業は毎日の水やりと収穫、時々行う追肥のみになりました。とはいえ、改善が必要なポイントもあります。強風や大雨で支柱ごと倒れて茎が折れることが多いため、天候との向き合い方が難しいです。
野菜づくりは、気分転換としてもうまく機能しました。中学受験生の頃は、朝から晩までずっと勉強に明け暮れていましたが、合間に行う水やりや摘心といった野菜の世話が、勉強一辺倒に偏った日々に潤いをもたらしてくれました。夏になると収穫がピークを迎え、自分も頑張ろうと大いに励みになりました。
外界と内界
大学進学とともに上京して、庭づくりから遠ざかりました。無機質な建造物がひしめいている大都会をイメージしていましたが、慎重に探せば自然を感じられる場所がたくさんありました。最初に選んだ杉並区は上品な街でした。ちょうど部屋の前に大家さんの大きな畑が広がっていました。数多くの野菜が丁寧に植えられており、朝日を浴びながら野菜の生長を眺めるのが好きでした。野菜は無人販売されているため、常に新鮮で美味しい食材を確保できました。敷地にはケヤキやイチョウの巨木も残されており、多くの野鳥が集まっていました。特に、囀りに包まれながらの朝食は格別でした。
杉並で2年近く暮らしたあと、千葉県の柏・流山地域に引っ越しました。都心から近いにも関わらず、森が点在して良い雰囲気でした。このときもGoogle Earthを用いて念入りに土地を調べ、部屋に朝日が差し込むことを確認し、小さな森の横に一室を借りました。江戸時代に整備された森の名残らしく、シラカシやイヌシデ・クヌギ・コナラを中心に常緑樹と落葉樹の混交林が形成されていました。1日を通して森の匂いが漂ってきて、静かで居心地の良い場所でした。勉強の合間によく散歩をしていましたが、植物の種類が非常に多く常に何かしらの花が咲いており、毎日を楽しく過ごせました。
庭は外界(自分の外側)と内界(自分の内側)が交差する境界ですが、外界を手入れしたり活用したりしつつ、外界への意識を変えることで、内界の環境も良くなるように思うのです。
本記事は、毎月発行している「学心だより」の抜粋文です。期間限定で公開いたします。