趣味が私に与えたもの

趣味が私に与えたもの

没頭したことを趣味と表現するならば、趣味を通じて私は多くのことを得ました。自信をつけたり、日々の充足感を味わったり、仲間とのつながりを深めたり、未知の世界に出会ったり、新しい価値観を持ったりして、少しずつ成長したように思います。

趣味自体に、発展・成長性があり、心身の健康につながるなど得られるメリットが大きいものは長く続けられます。私の場合は、登山・自転車・読書・勉強などです。いずれも、天井の見えない果てしない広がりを秘めています。これらの中でも、最も熱中させてくれるのが登山です。山域(エリア)という平面的な広がりに加え、沢登り・藪漕ぎ・冬山歩き・山スキーなどは、技術を磨き、体力を増強することによって、自然の中を縦横無尽に駆け巡ることができ、無限に楽しむことができます。登頂に必要な、クライミングやロープワーク、読図や天候判断といった技術的な要素や気力(精神力)や体力は自分自身の力量の指標になります。これらの技術や能力を高めることで、厳冬期の過酷な環境へも立ち入ることができ、その度に新しい世界が開けました。

多くの登山家は独自の思想や哲学を持っています。彼らの書籍を読んで、山行記録を地図と照らし合わせて机上で山旅するのも趣があります。

「自然は偉大な教師である」と父は考えていました。幼い私を山や川や海に連れて行き、そこで私を遊ばせました。私は自然の懐に抱かれて、風や水や土や石や草や木や生き物と触れ合いました。自然を感じる遊びが高じて趣味になりました。

幼少期の山

山はあらゆる点で奥深いです。歩くという行為そのものが思考を深めるのでしょうか。1歳半を過ぎた頃から山を歩き始めましたが、幼い頃の私は、森の中を歩いていると、いろんな考えが浮かび上がり、それを一つひとつ言葉にして父に伝えるのでした。

幼少期から植物や小動物の観察が好きで、巨大な生態系の一員になった気分で山に入っていました。若葉に輝く朝露に見とれながら、「友達(生き物)」を見つけては挨拶していました。獣の足跡を見つけたり、野鳥の囀りをじっと聞き入ったりしました。山から下りると、「友達」の絵を描いたり、図鑑や本で「友達」のことを詳しく調べたりしました。

栗拾いしたり、ふきのとうやアケビ取りをしたりして、季節ごとの山の幸をいただきました。また、生き物を採集して飼育したり、植物の種子や実生を集めて庭に植えたりして、生態を観察しました。

成長する(物理的に自分の目線が高くなる)につれて、次第に俯瞰する視点を持つようになり、山の地形や成り立ちまで目が行くようになりました。すなわち、新たな視座を獲得したのです。自然のことを丸ごと理解したいと思うようになり、理科や算数の学習にも身が入りました。サイエンスの全分野を網羅した「理科年表(国立天文台編)」を父からプレゼントされたのもこの頃です。嬉しくて毎日のようにノートに書き写して勉強しました。

小学6年から中学3年にかけて、勉強に打ち込み、独自の学習法を編み出しました。勉強に明け暮れしていた4年間は、山から足が遠のきました。

大学時代の山

大学受験時代に植村直己の「青春を山に賭けて」という本を読んだのが転機になりました。父の書棚には多くの書籍が並んでいますが、山岳関連の書物を集めた棚にその本はありました。

植村直己は、世界5大陸の最高峰にほぼ単独で登頂したほか、北極点の単独走破、アマゾン川下りなどと偉業を成し遂げた登山家・冒険家です。ここまで一つのことに情熱を注げるのかという驚きと開拓精神の面白さやたくましさを感じました。

途端に目の前の受験勉強が無味乾燥なものへと変貌し、実につまらないものに思えてきました。特にセンター試験のマークシートに解答を塗りつぶしていたときなどはとても惨めに感じました。とは言え、大学に進む以外の道を想像できず、なんとか自分を騙しながら受験に臨みました。大学に入学してからは、新鮮な空気を吸える登山に再び没頭しました。

大学時代の登山は、これまでとは全く性質の異なるものでした。雪山を効率よく移動するためにスキーを活用したり、沢や滝を登攀するためにクライミングの技術を身につけたり、冬山を安全に登るために気象の勉強をしたりしました。

幼い頃は自分の庭のように自由気ままに山を駆け回っていましたが、大学の山岳部では下界で万全の準備をして登山に臨むようになりました。山に対する私の姿勢は大きく変わりましたが、山は変わることなくいつもどっしりと構えています。故郷の山を歩いていると、「よいしょよいしょ」と言いながら登っている幼い私が脳裏に甦ってきます。

本記事は、毎月発行している「学心だより」の抜粋文です。期間限定で公開いたします。

この記事を書いた人

学ぶ楽しさを伝えたい。
自分で学べる子どもたちを育てたい。
2022年春に新規事業立ち上げ。教育で貢献します。